みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史 史上最大のITプロジェクト「3度目の正直」

こんにちは、こんばんは。

元銀行員のエンジニアです。

そんな僕の興味を惹いた本があったので紹介します。

みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史 史上最大のITプロジェクト「3度目の正直」です。

みなさんはご存知でしょうか? IT業界のサグラダファミリアとも揶揄されるみずほ銀行の大規模なシステム開発を。

本著では2011年から2019年までの約8,9年にも及んだ大規模なシステム開発の裏側が語られております。金融に関わっていなくともシステム開発などに携わる方であれば一読しておいて損はないでしょう。

対象読者

対象読者の想定は大きく2つでしょう。

  1. 銀行で働く人全般

  2. システム開発に携わる人全般

  3. 1つ目はもちろん銀行で働く方です。

    かつては都銀は13行あり、乱立していました。しかし吸収合併を繰り返し、2000年代には都市銀行は4つに集約されました。そんな過去をひも解くために、あえてシステム観点から覗くのも良いと思います。

    システムの用語などはそんなに出てこないので、ちんぷんかんぷんということはないです。むしろ業務システムのイメージがつく分、理解しやすいのではないでしょうか。

    本著では、みずほ銀行がかつて発生させた2度のシステム障害についても語られています。システム障害の引き起こした原因や障害解消に手間取った原因は直接的には情報システム部門にあったと述べられています。 しかしITがわからないと理解しようとしないばかりか避けて通ろうとした経営陣にも責任が追求されています。

    自分は営業だから、事務だからと関係ないと逃げず、IT社会を生きていく上でどうすれば良いのか考える時ではないでしょうか。この本は金融で生きる人がITに興味をもつトリガーになりうるのではないでしょうか。

  4. 2つ目は、IT業界で働く人、とりわけシステム開発を行なっている人でしょう。またそのシステム開発のプロジェクトマネジメントを行う人です。

    みずほ銀行の時期システム「MINORI」システムは35万人月、4,000億円半ばという史上最大規模のシステム開発プロジェクトです。この巨大プロジェクトにおいて、どのように要件定義を行い、どのようにコーディングをし、テストをし、リリースにこぎつけたのか。このプロジェクトのノウハウは、活かせる場面が多いのではないでしょうか。

    金融の業務に触れたことがない方は若干とっつきにくいかもしれませんが、ぶっちゃけ開発されたシステムそのものはそんなに重要じゃありません。設計の思想だったり、プロジェクトマネジメントの方法だったり、ってところを得てください。

概要

本著の構成は3章立てになっています。

  1. 時期システム「MINORI」システムの開発
  2. 2011年、震災の際に発生したシステム障害
  3. 2002年、合併直後に発生したシステム障害

第1章では、2019年に完成したシステム「MINORI」システムの全貌に迫ります。1980年代の思想を受け継ぐ従来のシステムから新システムを開発するに至った背景から、1から新システムを構築するための要件定義・業務設計、最大1000社ものベンダーが参加した巨大プロジェクトのマネジメント方法、入念なテスト計画、そして完成した今、次のビジョンは。という流れで「MINORI」システムが語られます。

第2章では、2011年に発生した東日本大震災。その直後の義援金の振込のバッチ処理に端を発するシステム障害の原因と経緯を時系列に沿ってなぞっていきます。

第3章では、2002年の3行(興銀、第一勧銀、富士銀行)の合併の直後に発生した、システム障害の原因と経緯をその3行合併が発表された後の業務基盤のベンダー選定のところから、障害発生〜解消までを時系列に沿って語られます。

所感

本著の感想は一言で言うと、現場や裏側までしっかり描かれていて、ドキュメンタリーとしてもドラマとしても面白いです。

第1章に関しては読み手を選ぶ可能性はあります。銀行の業務システムなど触ったことも触ることもない人や、プロジェクトマネジメントってなにそれ美味しいの?って人は、飛ばしても良いかもしれません。 ※なお、プロジェクトマネジメントの考え方は、どんな仕事においても重要になるので、どこかで学ぶべきものではありますよ。

ただ第2章、第3章は誰でも面白く読めると思います。それこそ、金融やシステム開発に携わっていない人もです。特に2011年3月に発生したシステム障害は、読んでいるこちらも絶望するようなタフなシチュエーションでした。

忘れもしない、2011年3月11日、東日本大震災発生。その3日後の3月14日、義援金振込口座に上限を上回る振込が発生。それが原因で夜間のバッチ処理が異常終了します。遅々として進まない復旧作業(なんと一件一件の処理を手作業!!)、遅れる報告、迫る翌日の営業時間。結果として、30万件近いデータを処理できずに翌日の営業を開始します。 そしてあろうことか翌日にも義援金が別の口座に殺到し、二日間連続でバッチ処理が異常終了し、手作業での復旧を余儀なくされます。当然数十万件のデータを手作業で処理が完了するはずもなく、翌朝を迎えます。そんなこんなをしているうちに追い討ちをかけるような給与振込の時期が到来。なんと未処理のデータが120万件にも及びます。

あまりにもハードすぎる展開に目が離せない。本著によれば30もの不手際が発生していました。その再発防止策も語られています。

第3章の統合3行および付き合いの深いベンダーを巻き込んだ陣取り合戦も見ものです。なんと見にくいのだろうか。しかしA.Tカーニーは美味しいとこだけいただいたなあ。

大いにやらかしたみずほ銀行。そのシステム障害の発生の原因や、対応、経緯などからは学ぶべきところは多いと思います。

以上です。